DUKE ELLINGTON『Money Jungle』

名盤・迷盤・想い出盤
前回はベイシーを採り上げたので、ここはエリントンをスルーしてしまうのは恐れ多い。2回続けてBIG BANDというのも、楽団維持費が大変なのでここは小編成モノにすることにした。何と言ってもエリントンはオーケストラによる音源が圧倒的多数だ。従って、このピアノ・トリオは迷盤ではなく貴重盤と言うのが適切だ。サイドがC・ミンガス(b)とM・ローチ(ds)となっていいるだけで、どう考えても真っ先に骨太サウンドを想像するだろう。ところが、今回の『Money Jungle』を引っ張り出したとき、あろうことか値上げラッシュの密林に幽閉されている昨今の我が身を思ってしまった。切実ではあるがこういう時に、自身の小モノぶりを思い知らされる。さて、1曲目からタイトル曲になっている。金銭欲は人間と切り離せないとして、ここでエリントンは 限度を超えると二束三文の人間になっちまうぞと強く警告しているように聴こえる。最初に言うことを言っちまった後は、只管アルバムとして完成度を高めることに徹している。進むにつれBIG BANDの時とは一味違ったピアニストとしてのエリントンの偉人ぶりが確かめられる。そこに対峙するミンガスは一歩も引かない。このベーシストから感じられる露骨でありながら練られた力強さは他に類例をみないように思う。一方、ここでのローチは思ったより抑制的だ。このアルバムではエリントンがニラミを効かせていたためか、さほど好戦的になっておらず、それが逆にガチャガチャになるのを回避できていて好結果を生んでいるように思う。今回聴いていて二つの曲について、レイジー・ライブとの関連で思い出したことがあった。一つは”アフリカの花”という曲で、演奏家は忘れたがこの曲と思って聴いていたら”Never Let Me Go”だった。よくあることだ。ついでの話をすると、ライブで曲名が紹介されずに演奏に入ってしまった時、しばしば曲を思い出せずに振り回されてしまうことがある。これは非常に歯がゆい状態だ。それを克服するために聴くことに専念できるよう、集中力を絶やしてはならないと強がっている。本当は年齢的な記憶力低下(思い出せない症候群)への言い逃れをしているだけだとしても。さて、思い出したことのもう一つは”Wig Wise”という曲。かれこれ10年も前のことだろう、大口さんと米木さんのデュオでこの曲が演奏されたことがある。その時は「二人だけでこんなにグルーブ‼」と恐れをなしたものである。私たちは体感したことを頼りに、時空を越えてレコードやライブや個人の様々なものがリンクすることを楽しんでいるのだろう。こうして行ったり来りしているが、決して堂々巡りしている訳ではない。なお、この『Money Jungle』には、「Worm Valley」、「Caravan」、「Solitude」なども収められており、退屈へのビザは発給されない。
(JAZZ放談員)
Master’s comment notice
エリントンの前に出ると皆子供に見える・・・と言った評論家がいた。このアルバムを聴くとそう思わないでもない。いい意味での音楽家父長制を感ずる。