2017.6.23-24 なるぴあの~ 大石染みる初夏の夜に・・・
大石 学(p) 米木康志(b)
この二人は継続的に共演を重ねているので、傑出した緊密感と安定感が維持されていることは周知のことだ。欲張りな我々は更にプラス・アルファをねだりに来た。2年前はトリオだったが、今回はデュオに凝縮されている。ここには良否で片付けられない際どい一線が引かれている。ドラムスが入るとサウンドの広がりを得ることができる一方、神の見えざる手にかかってピアノとベースの自由度に制限が掛けられてしまうのだ。だからこの2日間のチケットは、ひとまずデュオという自由席を取ったことになる。
何度か聴いていて思う。大石はどういうピアニストに思われているのだろうか?と。この問いは、抒情的とか耽美的とかという意味合いとは別に、彼が誰にも似ていない独自のピアニズムを持ち合わせていると感ずるところから出て来ている。オリジナル曲についても同様で“これが大石の世界”と、彼の感性を伝える曲想で貫かれていて揺るぎない。答えは分からないが、元々ブルース・ソウルその他色々やっていて、そのノリを一旦中和させるために後追いでクラッシックを取り入れる勝負に出たという特異なプロセスが少なからず今日の基礎をなしていると想像できる。だが、こんなことを考えなくても、ライブはそれ自体として楽しめるのであり、十分楽しむことが出来たのだった。多くの曲は、静謐なピアノのイントロから始まるが、一旦ベースが絡み始めるともう止めようがない。例によってピアノの音は抜群の切れ味で、仕掛け満載のフレーズが湧き出してきて退屈している暇はない。片や米木さんはZEKのツアーを東京で終え、連日の仕事の最後に本田竹廣さんを偲ぶライブ(峰厚介、板橋文夫、本田珠也、守屋美由貴)に参加、その翌日がLB2Daysという過密日程のただ中にいたそうであるが、太く新鮮な生音に疲労感など全くない。そればかりか、阿吽の呼吸だけで済まそうとしない演奏姿勢に驚異を感ずる。これは米木さんに一線級からのオファーが絶えない理由でもある。軽口をたたけば、ベースがなければ試合にならないのは野球ばかりではないということだ。結局、我々は大石・米木デュオという最高の自由席に座ることが出来たが、普段味わえないものを味わったという意味で、料理人が足を運ぶ料理屋に招かれたような最高に贅沢な気分になったのだった。演奏曲は、「ワルツ」、「ウイズ」、「ラウンド・ミッドナイト」、「雨音」、「ワンダー・ワールド」、「エブリシング・アイ・ラブ」、「ボニー・ブルー」、「アリス・イン・ワンダーランド」、「アイ・ソート・アバウト・ユー」、「アイム・ユアーズ」、「アット・レスト」、「E・S(エリック・サティ)」、「クワイアット・ラバーズ」、「インディアン・サマー」、「ヨペク&アマシア」、「空」、「シリウス」、「アローン・トゥゲザー」など、そして2日目のアンコールは何度聴いても感動を呼ぶ大石の名曲「ピース」で締めくくられた。
多くのライブハウスにとってピアノは必需楽器になっている。ここLBにおいても同様である。この1台には何人ものピアノ奏者がその響きを残してきた。随分前のことになるが、大石のライブ終了後に、「このピアノがこんなに鳴るとは思わなかった」旨を本人に伝えたところ、「もっと鳴らせるよ」という言葉が返って来た。この時の会話を思い出しながら、古典に全く素養のない筆者の思いつきによる大石の枕詞が「なるぴあの~」だ。深み欠く~!!
(M・Flanagan)