2019.6.21-22 大石極上のスピリット

6.21 松原衣里(vo.)With大石学(p)・米木康志(b)
 松原3度目の登場となるが、関西をホームにしている彼女は2年ほど札幌に住んでいたことがある。思いでの横浜(6.17ブログ)の札幌バージョンといえようか。冒頭彼女は、1週間くらい前からそわそわしていたと正直に打ち明けてくれた。わが国屈指のバック大石・米木、言わずもがなである。ヴォーカルには色々な人がいて、色々な聴かせ方をしてくれる。なので、それぞれに聴きどころがある。松原はと云えば、その選曲やふんだんにスキャットを駆使するなど所謂正統派に属していると思う。歴史に名を残す大物を相当研究したのではないかと想像できる。そしてその持ち味である奥行を感じさせるアルト・ヴォイスとここぞの瞬発力によって彼女の資質が十分引き出されているのだ。加えて最高のバック。“大満足”、終わってからの松原の一言だ。
曲は、ピアノ・ベースDuo「オール・ザ・シングス・ユー・アー」、以下松原が入り「アワ・ラブ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」、「イット・ネヴァー・エンタードゥ・マイ・マインド」、「デイ・バイ・デイ」、「ファースト・ソング」、「ムーン・レイ」、「バット・ノット・フォー・ミー」、2回目も最初はDuo「ビューティフル・ラブ」、以下「It don’t mean a thing」、「ア・タイム・フォー・ラブ」、「サムタイム・アイム・ハッピー」、「ワン・ノート・サンバ」、「ジョージア・オン・マイ・マインド」、「ジス・キャント・ビー・ラブ」、「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」。アメリカでは各地にBig・Mamaと呼ばれるシンガーがいそうな気がする。極東アジアにもその一人がいるのだった。なお、どうして「It doesn’t mean・・・」ではなくて「It don’t mean・・・」なのかを調べて見たところ、「doesn’t」で歌うとスイングしないから文法を無視したのだそうだ。確かに。
6.22 大石学(p)・米木康志(b)
一夜明けると、札幌は松原のシャウトに刺激されたかのような強烈な雷雨に見舞われ、それは勢いを弱めながら夜まで続いた。大石が最初に採り上げたのは自作の「コンティニュアス・レイン」という曲だった。大石は時間があればいつもピアノに向き合い作曲しているらしい。今回もオリジナルの合間にスタンダードを添える形で進行した。順に「ジェミニ」、「クワイエット・ラヴァーズ」、「雨音」、「チェンジ」、「シリウス」(米木オリジナル)、「メモリーズ」、「ザ・ウエイ・ユー・ルック・トゥナイト」、「ピース」、「ビューティフル・ラブ」。一言つけ加えると大石の代表曲「ピース」は何度聴いても胸を打たれる。大石を初めて聴いてから15年くらい経つ。ソロ、デュオ、トリオ、カルテットと折に触れ耳を傾けてきた。大石の一種叙情に溢れた演奏が彼の音楽性だとしよう。するとその音楽性の陰にある精神性を覗き込んでみたくなる。おそらく大石学とは、音が彼から逃れなくなるまで研鑽を重ね、そこに揺らぐことなくプライドを注ぎ込む信念の塊のような演奏家なのである。これを「大石極上のスピリット」と言わずに何と言う。少し力が入ってしまったので方向転換しよう。大石は作曲魔という主旨のことを先に述べた。“いも美”という曲を作ってみようかと呟いたようである。空耳でなければ、いつか大石さまが。アルコールついでの話だが、終演後、『大石』という熊本の米焼酎が振る舞われた。この春、常連さんが持ち込んだもので、3カ月間この日のために開封せずに我慢したという。一口よばれたが、『大石』極上のスピリッツであった。
臨時ニュースを一つ。HPのライヴ・スケジュールには「米木康志多忙のため今年最後の固め聴きチャンス」と付記されていたが、12月下旬に空きが出たため、急きょ日程が組まれたのでお知らせしておく。
(M・Flanagan)