この日のライブは、本山の最新アルバム「As it is」リリース記念の第一弾として組まれたものである。発売レーベルは、ここLazybirdで何度か演奏歴のあるピアニスト荒武裕一郎氏が主宰するOWL-WINNG-RECORDだ。音楽文化の保存や発展と真摯に向き合うこの主宰者から声がかかること自体、本山の力量を物語るものであり、その意味で今回のことは降って湧いた特ダネでも何でもないと言えよう。私たちがこの新作に期待を膨らませるこのライブは2月26日に行われた。226である。一石を投じられているかも知れない。それはさておき、ライブは当然ながらアルバム収録曲が中心であり、まずはそれを紹介をする。「It Could Happen To You」、「Witch Craft」、「Misty」、「Butch & Butch」、「Come Together」、「Moon Walz」、「Little Wing」、「Fingers In The Wind」である。これらの曲は本山が演奏し慣れた曲というよりは、特別な思い入れがある曲である。普段はあまり読まないライナー・ノートに目を通して、これらの曲は本山が演奏することへの志を後押しする契機へと導いた楽曲集なのである。そう思っているとタイトル「As it is」の意味合いが少しずつ近づいてきた。多くの人と同じように、筆者にとっても音楽とは、音を媒介にした生命の表現行為と思っている。個々のアルバムやライブを即時的に楽しむことを大前提としつつ、そこに至るまでに演奏家がくぐり抜けてきたプロセスを想像することは陰の楽しみである。生命が必ずしも一定でないように、音楽表現も“時の階段”を踏み上がることで一定であろうとはしない。このことは過去の否定とは異なっていて、時を経た現在から過去に向かって返信してやろうとする思いに駆られるのは正統なことである。すると本山がこのアルバムで描こうとしたことが見えてくる。「As it is(ありのまま)」とは、過去の「As it is」群を現在時点での「As it is」に集約してみせることだったのではないのかということだ。先に述べた“時の階段”とはそういう意味を含ませて使ってみた。最後に、このアルバムについて体感的に述べておく。筆者はレコード、CDをジャズ喫茶のように聴くので、同じアルバムを立て続けに繰り返す習慣はない。しかし、今回は朝、昼、晩そして深夜と何度となく聴いた。むしろ何度も聴くことができたと言ったほうが正確である。「Misty」ほか素晴らしい演奏が納められている。本山の最良の姿を捉えた素晴らしい作品だと言い切っておく。
(M・Flanagan)
付記
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