2023.4.6-8 祝19周年記念LIVE

かねがねハクエイのLIVEを聴いてみたいと思っていたので、それが周年記念の大催しで実現したのは大いに喜ばしい。しかもトリオでの初日は米木、珠也との共演、翌二日間はそこにレジェンドの峰さんが加わるカルテットである。ハクエイと峰さんは両者とも多分4年ぶりくらいの来演と期間が空いたことも気分をプッシュしてくれた。話は変わるが、去年が17周年で今年が19周年になっている。18周年がないのだ。真相はよく分からないので、今回は2年分の気迫で臨んだということを正解としておこう。何よりこのキング達を結集ならしめたのがその気迫の現だ。つまり納得のキングをコールしたのだと一旦ショボく締めておく。
<4.6トリオ キム・ハクエイ(p)米木康志(b)本田珠也(ds)>
 総じて短めのイントロからテーマに入るパターンにはなっていないので、何が始まっていくのだろうかと思わせる。眺望するとそんな感じで進行していった。オリジナル以外は、あらかじめ曲名が紹介されないので、聴いている途中で「あっ」ということになる。そこから圧巻のインタープレイに突入するのだが、このレベルになると握る我が手の汗も上質になった気にさせられる。またハクエイの曲はどうかというと、彼がイメージしているものとそれを旋律に落とすことにかけては、抜きん出たものを感じる。タイトルをつけてから、曲作りをしているのではないかと想像するが、どうだろうか。では簡単に演奏曲を紹介する。MCは僅かだったのが、それを手懸かりにそして後は当てずっぽうにしよう。まずは「Solar」、実はマイルス作ではないかも知れないとコメントされた深淵なる「Solar」、オリジナルで重厚感タップリの「Gardens By The Bay」、コルトレーンの「Some Other Blues」、身も心も分解させられる「Body&Soul」、既知の者が初対面であるかのようにフレッシュな「Have You Met Miss Jones」、オリジナルの「Fish Market」は小樽の三角市場のようなサカナ臭はなく、多分架空の何処かと思わせる。続く2曲もオリジナル、最初の「Sleep Walking」は夢から覚めぬまま彷徨い歩いてしまった実体験を曲にしたもので、その危うさを映し出していて怪しげだ。次の「Late Fall」における三者の熱量と所どころのエキゾチズムには少々陶然とさせられっちまった。ここで一段落といきたい「Old Folks」ではあったが、一息つけるものではなかったな。最後はショーターを偲ぶ「Foot Prints」。アンコールはオリジナル「Open The Green Door」、扉の向こうに何があるのか?珠也のドラムは「皆んな気をつけろよ」と警告しているようでもあった。全11曲、ピアノ・トリオとしては異例の長時間に及んだが、それは時計が言っているだけのことで、短くすら感じられたのだった。
<4.7-8カルテット 峰厚介(ts)キム・ハクエイ(p)米木康志(b)本田珠也(ds)>
 そこにいるだけで存在感がある。峰さんのことだ。’70年代の峰さんのことを思い浮かべていた。既にその頃から50年を数える。尋常ならざる音楽精神のタフさが秘められているだろうことは創造に難くない。筆者のような一般人は体力と精神力の下降は相関してしまうばかりか、そもそもチューニングが狂いっぱなしの人生がチラついてしまう。よって、そこは見て見ぬふりをしなくてはいけない。それはさておき、実在する特別の巨人が凡人の目の前に座しておられることに集中しよう。カルテットでの二日間は、ほぼMCレスで余計なもの?は徹底して排除されていた。選曲はスタンダードとハクエイのオリジナルで占められていが、一部の重複曲も別演奏になっていて、JAZZのエッセンスが凝縮されたものになっていたと言える。敢えて触れておきたい。二日目の終盤に「Django」が演奏された。過去にプーさん(菊地雅章氏)と峰さんによるDUOの名演があり、即座にそれが頭をよぎってブルッときた。懐の深い音色に吸い込まれていったのだと思う。後で分かったことだが、この選曲は珠也の提案によるものだったらしい。曲によってハクエイが容赦なくアップテンポのカウントを出したりすることもあったが、峰さんは泰然自若、どの音域でも太く鋭くそしてノリの大きい歌心で例えようもなく素晴らしい演奏に仕上げていった。どうやも筆者は「このLIVEを聴きに来て本当によかった」ということを言いたいらしい。演奏曲は「Beatrice」、「I Want To Talk About You」、「Turn Arround」、「Sleep Walking」、「Body&Soul」、「In Your Own Sweet Way」、「Django」,「Offer Refused」、「Orgy」など。春の祭典は終了したが、LB史に残るLIVEが、また一つ加わった。
 昨今では、何とかの”壁”という言葉が定着している。数年に亘って才気あふれる若手・中堅の演奏を大いに楽しませて貰っている。今回のLIVE3日間で巨人の壁があるかも知れないと感じた。さて、来年は何周年記念になるのだろうか?カウント蔑視はマズイよね。
(M・Flanagan)