2024.9.6 渡辺翔太トリオ


渡辺翔太(p)若井俊也(b)中村海斗(ds)
 レイジー3度目の来演となる渡辺翔太、前2回のライブを通じて実に個性的なプレイヤーだという印象を持っていた。”個性”とは個人が容易に集団化しない自立性ぐらいの意味合いだとして、渡辺の演奏はそこにピタッと嵌まるものがあった。謂わば「誰か的」な感じがしなかったのだ。加えて彼は作曲の才に秀でていて、本節もオリジナルたっぷりの選曲で固めてきた。とかくオリジナルだと余ほどのことが無い限り、その”旋律”よりも専ら”演奏”だけに気を取られてしまうが、彼の場合はその両者が絶妙にバランスしているので、初対面だがお馴染みさんといった中々有り得ぬ満足感を得ることができる。おこがましくも筆者の評定としては、局面々々の切れ味は言わずもがなとして、徐々に奥へ向かって畳みかけながら淀みなくクライマックスに持ち込んでいくところが最大の聴きどころといったところだ。その聴きどころをひっくり返してみると繊細なバラードプレイが待ち構えていて、両面からの聴きどころが相成り立っている。これを勝手に”翔太マジック”と名付けてているのだが、知らず知らず私たちは渡辺翔太が思い描いている世界に誘い出されてしまう。それを以てマジックの種明かしとしよう。オリジナル以外では唯一C・チャップリンの「Smile」が採り上げられた。この演奏は彼のアレンジによって私たちがよく知る”ほんのり・しみじみ”した曲想とは全く別ものに仕上がっている。彼の何枚目かのCDに収録されているので興味ある向きは聴いてみることをお薦めする。円熟期の翔太マジックにまんまと引っ掛かるのは気分爽快だ。加えて今回は中村海斗が同行してきたこともこのライブに魅かれる大きな要因であった。彼の叩き出す重量感もさることながら、血沸きあがるような奔放さが何とも頼もしい。それが初めて聴いてみての率直な印書だ。何か起こしそうな要注目のドラマーである。幾度も触れてきたことだが、レイジーでは若井俊也が推奨する「東京の生きのいい若手を聴く企画」が何年にも亘り継続されてきた。その初期のころに来た連中は今や分厚い中堅層をなして活躍している。海斗を聴いていて「生きのいい若手」が後を絶つことなく 排出されているのを実感したのは筆者だけではないはずだ。演奏曲は「マンチャー」「Day Dream」、「つれづれ」、「Our Lady」、「Pure Lucks Bears In The House」、「歩く」、「Smile」、「 要」、「Sad Times Before Peace」、[Lullaby」。
 今までのところ渡辺翔太を生で聴く機会は多くはなかったが、彼の”個性と発展”から目を離さないようにしていたいものだ。
(M・Flanagan)