ワンダフルライフ 是枝裕和著

是枝裕和は映画監督である。「万引き家族」でカンヌ映画祭グランプリを取っている。その監督の小説である。同名の映画もある。厳密に言うと小説の方のワンダフルライフは「小説ワンダフルライフ」がタイトルである。このこだわりが小説の成り立ちにも関係がある。小説が原作になって映画が製作されたのではない。映画の方が先なのである。かといって映像を文字に置き換えたのでもなく脚本を肉付けしたものでもない。僕は小説の方を先に読んで映画を見た。今の時点で思い出すのは映像の1シーンだったりするのだがそれが映像の方が勝っていると言う事ではない。映像と小説では表現する手法が違うと言う事なのである。監督も映画のモチーフを活字というフィールドに開放していく行為であったと述べている。
人は亡くなるとある施設に一度行く。そこで天国に行く前の1週間の間に「人生の中で大切な思い出」を一つ選ばなくてはならない。それをそこの職員が映画に再現して最終日に上映会が開かれる。死者はすべての事を忘れその思い出だけを心に天国に行く。その思い出を選ぶために死者は自分の人生を振り返ることになる。ある者は妻との平凡だが幸せだった日々を思い出し、ある者は少年時代に電車の運転手の後ろから見た風景の事を想い出す。ある男は毎日自分の女性遍歴を語り職員を辟易させる。だが最後に選んだ思い出は娘の結婚式だったりする。
映画ではこの役を由利徹が演じている。DVDにはカットされた由利徹の独白が収められているが思うにこれは由利徹の実体験で監督がフリーソロでしゃべらせている。
一週間で選びきれない者もいる。その人間はここの施設でほかの人間の思い出選びを助けることによって自分の人生と向かい合うのである。ここの職員は思い出を選びきれなかった人間なのである。
読み終わったとき自分は何を選ぶだろうと考えてみたが思い浮かぶことは結構つまらないことで感動的なものは皆無であった。だが自分の人生はその総体であると思っているので落ち込むことない。さすがに一つだけというのは厳しい。僕も死んだらここの職員になるはずである。
参考図書
「とりつくしま」東直子著
主題が「ワンダフルライフ」と並行調の関係にある。
こちらは死後一回だけ物として現生に帰ることができると言う話である。ある女性は野球をする息子のロージンバックとして甦る。息子はロージンバックで手の滑りを止めた後最後の一球を投げる。そして・・・・・
必ず泣けてきます。
いい話の後に恐縮だが思い出した話がある。山下洋輔さんのエッセイにも書かれているのだが、小山彰太さんからも同じ話を聞いたことが有る。山下トリオのツァー中バスを待つ間ぼーっとしていると自転車に乗った綺麗な女性が前を通り過ぎたのである。おもわず坂田さんが生まれ変わったら「あの自転車のサドルになりたい」と言ったそうである。