集金人

寒さが続いた一月末の午後、インターホーンが鳴った。「どちら様ですか」と言っても返事がない。モニーターにも人影が写らない。道新の集金のお母さんだ。以前きいたことがある。耳が遠くてインターホーンの問いかけは聞きえないという。それに小柄なのでモニターに映るだけの身長がない。
直接玄関に行った。
「どちら様」
「道新です」
ドアーを開けるといつものお母さんが居た。大雪なので流石に自転車には乗ってきてはいない。
「寝ていなかったかい」
「大丈夫ですよ。起きていましたよ」
僕はは午前中は寝ていることが多く、インターポーンを鳴らしても気が付かないことがあることを言ってあるからだ。
寝る前に一度雪かきをしたのだが、階段には段差が分からない程の雪が降り積もっていた。
「階段上りづらかったでしょう」
「大丈夫さ。ゆっくり上ってきたから」
確か今年で80歳になる。雨の日も小雪の日も自転車で回ってくる。
「いくらでしたっけ」
「3353円」
一万円を出すといつものように「まず、大きい方が6千円、確認してね。あと。百円が600円・・・・・・」
と自分にも言い聞かせるようにお釣りをくれる。
前に一度多くお釣りをもらって後を追いかけたことがある。
「直接言ってもらって助かった・・・・・・。販売店に言われたら私・・首だから」
使ってもらえるうちは、頑張るという。
「はい、ありがとう。またよろしく」
大変そうなので振り込みにしましょうかと言ったことがある。
「私、仕事減ってしまうから・・・・」
「階段気を付けてね・・・」
「滑らない、長靴だから、大丈夫さ」と言って曲がった腰を伸ばし伸ばし降りて行った。
また来月、元気な姿を見るのが楽しみなのである。
株価とも一億総活躍政策とも一流企業の内部留保額とも何の関係もない所で淡々と生きている人がいる。