2019.10.18 本山 東京以心伝心トリオ

 本山禎朗(p)楠井五月(b)小松伸之(ds)
これは在札の本山が、アウェイの東京で演奏する時に組まれるトリオである。メンバーは、LB登場から月日は浅いが、その驚異的テクニックは(ペデルセン+ビトウス)÷2+something-elesと言われており、衝撃のベーシストと称されている楠井、原大力の一番弟子で札幌には10年余りのブランクを置いて舞い戻って来たドラムスの小松。この二人は先ごろ深い感銘を残していった池田篤とともに辛島さんのバンドに在籍していたので、そちらで聴いていた向きも多いと思われる。1回目は、ガーシュイン「エンブレイサブル・ユー」、「マイルス・アヘッド」と名曲が並べられ、耳馴染みのないクレア・フィッシャーのしっとりとした「ペンサティバ」、オスカー・レバントという作者の曲で、若き純粋は時に危険でもある「ブレイム・イット・オン・マイ・ユース」、4曲目は「ホワット・イズ・ディス・シング・コールド・ラブ」、品位優先の曲だと思っていたが、ここでは奇襲攻撃が絡む熱の入った演奏。コール・ポーターが気に入ったかどうかは誰も知りようがない。2回目はR・ロジャース「ハブ・ユー・メット・ミス・ジョーンズ」、モンク「レッツ・コール・ジス」、R・カークのゴスペル・ライクな「フィンガーズ・イン・ザ・ウインド」。最期は、ここのところ本山が好んで採り上げるピーターソンの「スシ」、トロトロするどころか、抜群のスピード感が漂うもので、ネタの鮮度は開店前の行列モノであった。アンコールはE・ガーナーの「ミスティー」で、とろけるようにライブの幕を下ろした。演奏側自らがオススメ・トリオと言っているだけのことはある。連携十分な纏まりの良さを目の当たりにして、以心伝心トリオという思いに行き着いた。
2019.10.19 鈴木 一心不乱カルテット
 鈴木央紹(ts)本山禎朗(p)楠井五月(b)小松伸之(ds)
前日のトリオに加え、当夜だけにのみ鈴木が駆けつけた。この演出は賞賛すべきものである。1stは、前日もやった「エンブレイサブル・ユー」、テナーが入ると相当雰囲気が変わることが見て取れる。マイルス初期の「バップリシティー」からカーマイケル「スカイラーク」と古典群が続く。ドラマーV・ルイスの「ヘイ、イッツ・ミー・ユア・トーキン・トゥ」は初めて耳にしたが、太鼓屋ならではのドライブ感のある曲に猛アタック、爽快そのものだ。2ndは、今どきの冷え込みから、枯れゆく葉のリーブスと秋が去り行くリーブスが重なる。「オータム・リーブス」でスタート。続いてモブレーの「ジス・アイ・ディグ・オブ・ユー」でバップ的に会場を加熱。続く「イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド」は、ゆったり流れるモノクロ映画の中に誘い出されるかのようだ。それに身を任せていると、“うっとり”から“うとうと”に引きずり込まれそうになった。とその時、鈴木のカデンツァから「ザ・ソング・イズ・ユー」に突入して一気に覚醒した。今日のハイライトを成すに相応しい滅茶カッコイイ(少し軽いか?)熱演にゴキゲン沸騰。酔いしれる演奏とはこのことだ。アンコールは今も昔もあらゆる瞬間が「ナウズ・ザ・タイム」。これは我らに脇見を許さぬ一心不乱のライブだ。
鈴木は7月のオルガン入りトリオで問題提起していったが、時を経ずして再び聴ける本企画に有難みを感じつつ、バースを回す。鈴木、大きく歌いながら、細かく音が刻まれるパッセージがふんだんに湧き出るさまは、恰も管をくわえた話術師と言えるものだ。500円と1万円のワインをハズしても、鈴木を聴き間違えることはない。楠井、イフェクタありアルコあり、パッション・アリアリ。小松、原師匠のエッセンス継承の上に、自身の個性を貫徹。前日からソツ無しスキ無しユルミ無し。本山、他のメンバーの押上げに真っ向勝負、実に腰のすわった演奏を披露した。2日合わせて延べ“7人の侍”よるヌルさ撃退ライブでした。 
(M・Flanagan)