名盤・迷盤・想い出盤
もう20数年前のことになるのだが、Lazyの前身Groovyで確か「Back To Back」がかかった時に、マスターと『ホッジス、いいですねぇ』と言葉を交わしたことを思い出したのである。ジョニー・ホッジスは、エリントン楽団の花形プレイヤーとして高名であるとともに、ビッグ・バンド以外の仕事も程よく残している。だが知名度の割りに殆んど巷のJazz談義に出てこない。これは例えば、新譜情報を提供するという重要な役割を担ってきた音楽ジャーナリズムが、その一方で手っ取り早く読者の気を引きそうな特集を常態化するという持病を手当しなかったことと無縁では無いように思われる。しかしジャーナリズムの定番路線がマンネリを来していたとしても、一定の支持を得ていたとすれば、ホッジスにとっては風向きはよくない。そうではあっても、細々と「コーヒー1杯のジャズ」に身を寄せてきたファン達は、おそらく”自分だけ名盤”を持っていて、それが筆者にとってホッジスものだったりする。彼を聴いていると、何の身構えなしに「これがジャズだよなぁ」と呟いてしまうような世界に導かれる。
どれにするか迷った挙句の本選定盤についてはどうであろうか。ここにはスイング感や歌心が溢れていて、とり分け彼の艶やかな音色とブルース・フィーリングには思わず引き込まれる。そこにビル・デイビス(org)やグラント・グリーン(g)らが、ジワジワとグルーブを上塗りしていく。特別着飾ることはしていないのだが、彼らの普段着はたちまちアーシーで上等な見映えに化けてしまう。時代に惑わされないジャズの原風景を眺めている気分だ。この原風景を決して古臭い眺めと言ってはならないのだ。ホッジスは新時代に打って出る野心家の作品群の中に埋もれてしまい兼ねないと思われがちだろう。仮にそうだとしても、彼が容易には手に入れられないジャズの光源を堅持した偉人であることを疑うことはできない。
ひとつマイナーな蛇足を付け加える。昨年、頭の中が音楽バラエティー状態の柳沼(ds)と話していたとき、「どんな人が好きですか」と問われ、「ホッジスなんかがいいねぇ」と応じてしまったことも本盤を採り上げた動機になっている。
(JAZZ放談員)