29連勝

藤井聡太が新記録29連勝を達成してしまった日、その記事が新聞の一面を飾った。まづ天下国家の記事を一面で取り上げてもらいたいと言っておく。ワイドショーでも取り上げられ何を昼食で食べたかまで周知の事ととなる。
日本将棋連盟にとっては救世主のような存在になっている。数か月前にはスマホ持ち込み事件で会長が辞任に追い込まれ大手のスポンサーである新聞社が棋戦運営から降りるのではとまで言われていたのである。ところがこのところの藤井旋風でにわか将棋ブームになり子供たちの間で将棋を始める子が増えている。僕は50年来の将棋ファンなのでうれしくは思っている。将棋は本当に奥が深くてスマホの暇つぶし系ゲームなどやる気が起こらない。持っていないこともあるが・・・・・。ところでそれまでの連勝記録保持者の神谷広志八段のことを知っている人はあまりいない。jazzで言ったらギルド・マホネスの様な存在だ。連勝しているときもそんなに話題に上らなかったし、そもそも神谷八段ってそんなに強いの・・・・というのが世間の評価だったと思う。その神谷八段のコメントが小さく載っていた。「凡人が幸運でたまたま続けて勝ったのとはわけが違って才能ある天才が素晴らしい内容で勝ち続けている」そんな内容だった。こういうコメントを言える大人は素晴らしい。世界におけるじぶんの位置を認識している。それでは藤井聡太にプロ一勝目を献上した加藤一二三九段は如何であろうか。独特のキャラで色者扱いでバラエティー番組にも時々出ているから神谷八段よりは知っている人は多いと思う。藤井四段に破られるまでは最年少棋士の記録を持っていた人だ。藤井四段とは違うタイプの天才であった。タイトルも何期か保持し名人まで上り詰めた棋士である。ところがその才能に見合うだけの活躍ができなかった。全盛期の大山康晴名人と活躍時期が被っていたからである。大山名人は当時の若い加藤一二三の才能を見抜き若い時に徹底的に叩いておこうと考えた。勝つときもただ勝つのではなく真綿で首を締めるような勝ち方をして徹底的にダメージを与え続けた。大山名人はそういう勝負師であった。その加藤九段も引退することとなった。名人位を取った人は花道を考えそれ以前に辞めるのが普通だが加藤はその道を選ばなかった。名人位を取った人が今藤井のいるクラスで将棋を指すという事は本横綱が序の口で相撲を取ることに等しい。生涯一将棋指しというのもそれはそれでカッコが良い。僕は加藤一二三の将棋定石の本を五冊ほど持っているが素人には分かり難い。これにて居飛車よし・・・と書いてあるがあまり優勢とは思えない局面で終わっていることがある。これは加藤がNHKの解説の時もあるのだが独り言のように「あれ、こう、指しますか。あれあれ、あの手を指されたら終わりますよ。こう指す、こう来る、やっぱりだめですね。」素人には全く手が分からない。
藤井四段の方が落ち着いてしゃべる。藤井四段を見ていると本田珠也のことを思い出す。デビューの歳が近いからだ。受け答えは当時の珠也とは比べるまでもなく立派だ。願わくは珠也の歳まで一流であり続け将棋界を牽引してほしいものだ。
ちなみに僕もミュージシャン相手の将棋は五連勝中だ。酒を飲まないで指せば藤井四段の記録に追いつくかもしれない。