Art Blakey & J・M『Saint Germain』

名盤・迷盤・想い出盤 
 この『Saint Germain』は、ジャズ・メッセンジャーズの中でで初めて入手したと記憶している。周知のとおりこのコンボはメンバーの変遷を繰り返しながら息の長い活動を継続し、多くの名作を残している。アート・ブレイキーはドラマーとしての名声ばかりではなく、新たな才能の発掘によって演奏鮮度を堅持しながら時代を乗り越えてきたと腰の据わった大物だ。とりわけ1950年代の中後期は白熱そのものである。よく言われるように、ブレイキーはメンバーを纏める面でのリーダーとして存在し、音楽コンセプトは他のメンバーに託している。本作ではその役割をベニー・ゴルソンに充てている。このコンボの前にはホレス・シルバーが、後にはウエイン・ショーターがそれを担っていたのだが、明らかに白熱の質が異なっているのが分かる。それぞれの代ごとに引きも切らぬ名演が残されているにも関わらず、何故このアルバムを選定したのか。その理由は「モーニン」が入っていだけでこのアルバムを手に入れ、何度も聴いた過去の思い出にせかされたからだ。恥ずかしいことに、その時点では「モーニン」を朝の「モーニング」のことだと思っていた。娘ならぬ”モーニング息子”だったのである。それはさて置き、このアルバムには100発100中の勢いで飛躍を遂げているリー・モーガンが入っている。彼はブレイキー親分の煽りに一歩も引かず渡り合っていて、その天才ぶりを如何なく発揮している。ここで彼に焦点を合わせると長話になりそうだ。いずれモーガンのアルバムを採り上げることもありそうなので、今回は彼について控えることにする。実は筆者がこのアルバムの最大の聴きどころにしていたのがピアノのボビー・ティモンズである。この人の醸し出すファンキーなノリは呆れんばかりだ。唯でさえ熱いこのコンボが、ティモンズによって更にそのメーターを上げているのだ。筆者はこのアルバムを回すと、早くティモンズのソロが来てほしいという気分になる。こういう聴き方は変則的に思われるかも知れないが、私たちは聴きどころを探しながら聴くという欲求から離れることは出来ない。。ボビー・ティモンズというピアニストは、革新的な功績を残すようなことはなかったにせよ、自分を出し切るということにおいて、賞賛されるべき演奏家だと思う。数ある「モーニン」の中でこのアルバムのパフォーマンスがベストだ思う。また、収録されている他の曲も引けを取らない出来栄えである。加えてバッチリ捉えられている会場の雰囲気も申し分なく、ライブ盤としての値打ちも大ホールものに競り負けない一級品である。ブレイキー御大にあまり触れずじまいになってしまったので、その代わり数年前の話しにズーム・インしてみよう。LBライブに訪れていた原大力に、ドラム上達志願者が「どんなトレーニングをしたら良いでしょうか?」、原曰く「アート・ブレイキーを聴き込めよ」。原はジャズのそしてジャズ・ドラムのエッセンスについて、自身の体験をもとに一言添えたのだろう。
(JAZZ放談員)
Master’s comment notice
僕はA.ブレイキーのライブを聴いたのは一度だけであるがブレイキーがいなかったら日本でこんなにjazzが隆盛することは無かったのではと思っている。このアルバムの時代は「蕎麦屋の出前も口ずさむモーニン」というキャッチコピーをよく聞いた。ブレイキーのバンドは若手の登竜門でもありいつの時代も溌溂としているがこの時期は黄金期である。パリで受けに受けているのが伝わってくる。ティモンズが素晴らしくて失神者が出たというエピソードを聴いたことが有る。groovyを引き継ぎ「モーニン」のリクエストを受けた時初めてもっていないことに気が付いた。レコード店に買いに行った時店長から「盤痛めたのですか・・・」と聞かれ「すり減ったので2枚目・・・」とか言ってカッコつけたことを思い出す。