石井 彰(p) 小山彰太(ds)
日頃から東京のミュージシャンのライブ・スケジュールをチェックしたりしないので、誰と誰とが共演しているかについては良く知らない。唯一のチェック対象であるLBライブ日程のチョイ書きで過去の共演者や在籍したバンドを知ることができる。こうした事情は多くの人にとって当てはまると推察する。今回のピアニストについても演奏歴が不明だった。日野さんを聴くことから遠ざかっていることも理由に挙げてよい。さて、このチョイ書きどおり、大御所のもとで腕を磨いた演奏家が、本当に秀でた個性の持ち主であるのかを2時間後には証明していなければならない、この聴き方は意地悪な楽しみである。
曲の入り方は、いきなりテーマのものから長尺のイントロのものまで様々だ。イントロを聴きながら、あの曲かこの曲かを想像するのは普通にあることだが、1曲目の「ミステリオーソ」は予想外だった。暗示力のレベルが高いとイントロが自立した曲のように聴こえるためだ。ここのところはアドリブと共にジャズを紐とく肝心なレシピと思う。ピアノは他の楽器と異なり持ち運べないため、同じ1台が多くの奏者に委ねられる。それによって幾通りもの音の個性を楽しむことができる。この日のピアニスト石井は力強さと繊細さを兼ね備えているが、かなり明快な音を基調としているように思う。明快だからと言って軽い訳ではない。その鳴らせ方により、秀でた個性の証明に2時間は全く不要だった。札幌に拠点をおいたために彰汰さんのことには触れづらいので、あるシチュエーションを設定することによって誤魔化したい。ここに建設現場があったとしよう。そこは普通、楽器音とは異なる不規則な大小の解体音や作業員が去った後の埃っぽい静けさがある。順調に進めば新たな構築物が出現する。だが、ステレオタイプの建物は利便性を優先していて面白みがない。彰太さんの音は徹頭徹尾構築に向かいながら、その解体をも辞さない不思議なスイング感がある。どうやらこの人はパンドラムスの箱を開けることに躊躇していないようだ。孤高の想像力にいつも以上の感銘を受け、改めてDUOという構成による聴き応えを感じた。
演奏曲は、札幌ではその選曲により生計の糧になっているヘイデンの作品から「サイレンス」、「ラ・パッショナリア」、雅やかな和の究極「ナラヤマ」、多分ウェスの「BB」、彰太さん「ロスト・スポンティニアス」、オーネット「ブローイング・シャドー」、アンコールは興奮を鎮めにかかる端正な「ユー・アー・マイ・エブリシング」で仕上げ。ふぅ~。
幽玄郷DUOが果たされたという意味で今日は“幽玄実行”だ。ライブとは全く関係のない内輪の話でまとめる。昨年末から1月にかけて、仕事のため東京に離れたLBゆかりの人物が別々に訪れた(H瀬とS名)。この秋には二人つるんでLBに来ると宣言していった。“有言実行”を願うばかりだ。また有害実行のK屋には良心をもって馬齢を開花させてほしい。
(M・Flanagan)