2016.3.18 マイ・バップ・ペイジ
井上祐一(p) 粟谷巧(b)田村陽介(ds)
今年に入ってからピアノトリオが面白い。2月のキム・ハクエイ・トリオはスタンダードに新鮮な解釈が試みられており飽きを寄せ付けなかった。今月(3月)の11周年での大石学トリオは自己の美学を追求する強固な姿勢に感服した。今回の井上祐一トリオはジャズのエッセンスをバップとその継承に見出していることがストレートに伝わってきて、つぶやくとすれば、“ああ、こういうのっていいなぁ”ということになる。バップは、録音仕様で云うとモノラルな感じで、近年の高音質とは無縁の格好よさがある。筆者がジャズを聴き始めたころのピアノトリオとは、ビル・エバンスではなくバド・パウエルだった。何やら毒気が充満しているが、あちこちで新たな音楽の芽が吹き出している様子を想像することができる。あの時代は再現できない熱気に溢れていて、にスリル満点だ。ここで余談だがH・シルバに“ピース”という名曲中の名曲がある。この曲を聴くと熱いシルバと一致しない思いが募り、どうしてもこの違和感から自由になれない。
ところで、あの時代・バップの時代とはよく言うが、実はよく分からない。手掛かりとして、ダンスと切り離せなかったスイング時代から脱出するエネルギー噴出の時代と考えれば少し楽になる。このトリオの演奏曲を紹介しよう。「ヤードバード・スイーツ」、「ライク・サムワン・イン・ラブ」、「ウッディン・ユー」、「オーバー・ザ・レインボウ」、「ブルー・モンク」、「スリー・タイマー」(MCによれば、パーカー、モンク、マイルス風を詰め合わせたオリジナル)、「アワ・ラブ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」、映画“ラウンド・ミッドナイト”で演奏された「ワン・ナイト・ウィズ・フランシス」、「ティー・フォー・トゥ」「スター・ダスト」。楽しいライブだった。
今回はバップ本流を聴くことができた。B・ディランの曲で、K・ジャレットも演奏していた『マイ・バック・ペイジ』という曲がある。つられて私個人のバップ・紙片を読み直すことになった。
(M・Flanagan)