2016.8.19 チコ本田 ソングス・トゥ・ソウル

チコ本田(vo)和泉聡(G)高瀬順(p)米木康志(b) 
レイジー・バードの乱心からか、ここのところボーカルが席巻している。このシリーズの要所々々は押さえて来た積りだが、本日お招きしたチコさんのライブは長年延び延びになっていた経緯もあり、気は早いが今回を以て早くも年内のボーカル締めくくりとなりそうだ。重鎮チコさん故にこちらも重度の構えが必要になる。その上“適当に聴き流すんじゃねぇぞ!”、日本一多忙なドラマーの声が聞こえてきそうで増々圧が高まる。
全体的にロック系やブルース系が採り上げられている曲の布陣であったが、どれもがチコさんの圧倒的パフォーマンスに釘付けにされるものであった。中でもCCR(クリーデンス・クリア・ウォーター・リバイバル)の「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」、G線上のアリアを素材にしたプロコル・ハルムの「青い影」、J・ザビヌルの「マーシー・オン・ミー(マーシー・マーシー・マーシー)」はチコさんの今日を余すことなく伝えるものといってよいものだ。古めの曲が引き出す郷愁すら出る幕を失っていた。そして、急きょ予定にない選曲となったのが「Purple rain」。「パープル・レイン~パープル・レイン・・・」の連呼は異様に胸に突き刺さり、プリンセス・チコさんのこの瞬間は私達の永遠になると確信する。このほかスタンダードの「フールズ・ラッシュ・イン」、ベッシー・スミスで有名な「ノーバディ・ノウズ・ホエン・ユア・ダウン・アンド・アウト」、まばゆい「サニー」、“浅川マキ”バージョンの「イッツ・ナット・ア・スポットライト」、シャンソン歌手ジルベール・ベコーの「レット・イット・ビー・ミー」、ゴスペルの「ヒズ・アイ・イズ・オン・ザ・スパロウ」、本田竹広さん晩年の作品で小室等氏が詞をつけた「Save・our・soul」。アンコールはてんやわんやに「ブン・ブン・ブン」。筆者はこの感動に言葉は追い付けないと諦めた。言い逃れのために、サイドメンに関して逸話を添える。ピアノの高瀬はチコさんとの共演で初めてジャズの世界に足を踏み入れたということだ。因みに小学生の2年間ほど札幌に在住していたとのこと。ギターの和泉、イフェクターを駆使して大技・小技を縦横無尽に繰り広げたが、絶えず歌っているのには参った。因みに彼はあの臼庭潤が率いたJAZZ-ROOTSのメンバーで、その時はまだ二十歳くらいの頃だったという。米木さんによれば、元々チコさんとの共演が縁で本田さんと出会ったということである。“みんな逆だと思ってるんだよね”と突け加えて頂いた。因みに長年米木さんと仕事を続けている我が国のトップ・ボーカリストで7月にLBでライブを行ったあの人が、チコさんの歌には感動を禁じ得ないと漏らしていたらしいのだ。
永遠の1曲をテーマにした「ソング・トゥ・ソウル」というTV番組がある。ハートに秘められた声帯から滲み出すチコさんの歌は時に嗚咽のようであり時に優しい。今日出会った全ての曲を『ソングス・トゥ・ソウル』と言わせていただく。
(M・Flanagan)