LUNA(vo)菅原昇司(tb)板谷大(p)柳真也(b)
今年のLUNAは3月、7月と北上しながら、その後関東地方と東海地方あたりで無断外泊を繰り返していたらしく、音信が怪しくなったところではあったが、このたび3度目の帰宅を果たしたことはうれしい限りだ。本日は編成に管が入っているのが里帰りの土産だ。
順を追って曲を紹介する。B・エバンスの「ベリー・アーリー」、難曲を端正にそして熱く語りかけられて冒頭からしびれる薬を呑まされた感じだ。エリントン・ナンバーから2曲。多分、喪失感が主題と思われる「チェルシー・ブリッジ」、スキャットのみで陰影を出し切った。失恋の痛手で出歩く気にもなれない心境を歌った「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニモア」。異常気象がもたらす春らしくない春、夏らしくない夏、私の季節感をどうしてくれるのよとぶちまけるLUNA作「アイ・ドント・ノー・ホワット・トゥ・ドゥ」。地球が平であると信ずる某○○団体への皮肉「ディア・フラット・アーサー」。日本語はEarthを“地球”と云うので、既に地が平であることを否定しており、中々の人が命名したのだろう。成就しえぬ恋人たち、B・ストレイホンの「スター・クロストゥ・ラバーズ」、ざわめきが沈没する瞬間が訪れた。残酷と享楽と失望が混ざったような武満徹の「他人の顔(ワルツ)」、はかない大正ロマンを彷彿させる旋律。歌詞を色使いする魔術師ユーミンの「挽歌」、ビビッドな雰囲気に転換が図られた。これだけのファン囲まれてもLUNAの自意識はオーネット作「ロンリー・ウーマン」なのだろうか。LUNA手による「コントレイル(ひこうき雲)」、Tbのバルブの伸びと共に雲の糸が加速をつけて彼方に引きずられて行くところが聴きどころだ。生活感のない年齢の恋愛は一時的に最強だが、過ぎさりし日に思いを馳せるのは空しく響くというような内容の歌、曲名が不明につき勝手に名付けてみた。「青春の灰とダイヤモンド」。クルト・ワイル「ロスト・イン・ザ・スターズ」、人は淡い希望と無慈悲な失望に翻弄されるしかないのだろうか。惨禍からの復興を願う「ペシャワール」、一部の人々の中でスタンダードへの道を歩み始めている。今回も涙腺をピンポイント攻撃されてしまった。厳かにアルコで始まる「サイレンス」、ヘイデンは幾つか録音を残しているが、管が入るとリベレーション・ミュージック・オーケストラ風になることが分かる。そのヘイデンとH・ジョーンズによる名作「スピリチュアル」から標題曲、最終曲にしてライブのハイライトをなす大熱唱だ。又しても胸を打つ攻撃を受ける羽目になってしまった。万雷の拍手の中、これなしには外泊どころか帰宅も認める訳にはいかない。そうです「諸行無常」、胸をど突かれる度合いは今回も“not change ”だ。筆者は歌の解説に自信がないので核心を相当外していると思うが、それにしても歌詞というのは希望と逆向きの内容が非常に多い。傷を手当てするプロセスが人生だと言わんばかりだが、歌詞はその人生の趣きを掴み切ることを宿命としている。それゆえに心の世界と対峙するシンガーも歳月とともに深みを加える宿命を負うのだろう。面倒な話はやめた。LUNA!You’d be so nice to come back home to.
(M・Flanagan)