2017.8.18  纐纈に入らずんばモンクを得ず

纐纈雅代(as)米木康志(b)竹村一哲(ds)
纐纈を聴くのは初めてである。音楽において第一印象は結構重要だ。記憶に残る入り口になり得るからである。今日では女性の管奏者が珍しくはなくなったが、そういう潮流に属する評判の一人という以上には予備知識がなかったため、演奏が始まると音色と作り方がオーネット・コールマン風で意外だった。同時にこれが彼女を特徴づけているのだろうと察した。このトリオは、オーネットの名高い“ゴールデン・サークル”と編成が同じなため不思議な偶然を感じてもいた。今どきオーネットがどれくらい聴かれているのか全く想像がつかないので、だれ?それ?と言う人のために、我流解説をすると“中心に向かって逸脱するクリエイター”、といったところである。また、別の面でこのライブを特徴づけたのは、さながらモンク特集の様相を呈していたことである。漏れ聞いたところによると、纐纈は最近になって天の啓示があったらしくモンクが舞い降りて来たのだそうだ。ライブでのモンク曲は定番のようなものだが、「レッツ・コール・ジス」、「スキッピー」、「テオ」、「ハッケンサック」、「ジャッキーイング」、「アグリー・ビューティー」、「クリスクロス」、ここまで盛られるのは異例だと言える。オーネットの「ディー・ディー」は別扱いとして、脇役に回った感のある「ラバー・マン」、「ソフィティケイテッド・レイディー」そしてアンコールの「セント・トーマス」ではあるが主役を脅かす出来栄えになっていた。今の纐纈を理解するためにはオーネット通りとモンク通りの交差点付近に立っている必要があるのだろうが、若干その手前で聴いてしまったのが悔やまれる。従って、筆者はこのライブから最大級の満足を得たとは思わないが、際立つ個性によって纐纈の記憶化には成功したと感じている。これが彼女の経歴その他を全く知らない者としての第一印象である。標題はモンクなしには纐纈を語れないということと、危険を冒さなれば巨人モンクの魂を手に入れられないという意味を込めたジャスト・ア・ジ語呂合わせだ。
折角なので。前日のライブについて一言寄せたい。メンバーは田中朋子(p)岡本広(g)米木康志(b)竹村一哲(ds)だ。数あるLBライブの頂点に君臨する伝説のクインテット(臼庭、C・モンロー、津村、米木、田中)については何度か触れてきた。前の三人はもう生で聴くことができない。そのクインテットが演奏した「ベラクルーズ」を田中は選び、追悼のオリジナル曲「レクイエム」を演奏した。伝説のクインテットによる不朽の名演は今なお生き続けている。目頭が熱なった。
(M・Flanagan)