荒武裕一郎(p)山田丈造(tp)三嶋大輝(b)竹村一哲(ds)
標題が語るとおり東京からの予約便が欠航となった。このため、荒武と三嶋は別便への切り替えを余儀なくされ、開演には間に合わないというハプニングに見舞われた。これは移動に憑きもののリスクなので仕様がない。そこで編み出されたのが、デュオ、謎の余興、カルテット演奏のユニークな三部構成である。第1部はトランペットとドラムスのデュオである。周知のとおり山田と竹村は発芽を早くした若者だが、今やこれからのジャズ・シーンを牽引する実力者へと成長を遂げている。昨今のレポートで折々に触れているが、若手ミュージシャンの著しい台頭ぶりには目を見張るものがある。その意味で両者のデュオが実現にいたったことは、幸運な拾い物と捉えるべきなのだ。演奏曲は「ロータス・ブロッサム」、「ウェル・ユー・ニードント」、「リフレクションズ」。彼らの演奏には勢いを持続したまま、着実に表現の幅を広げている頼もしさが溢れていた。瑞々しいマグマのうごめきだ。つなぎの第2部はLBマスターとインテリジェンスはあるが機転の効かないO君との親子漫談がジャズ・クイズ形式で進行。微笑ましくも二人のアドリブ・レベルの違いが露呈し、逆に笑えた一幕であった。なお、突発性の奇問を制した勝者にはライブ招待権が付与された。さて、開演前から荒武と三嶋の移動状況が、いま三陸上空(らしい)、新千歳着、札幌駅着といったようにタイムリーにアナウンスされたが、ついに店のドアが開いたときは、待に待った割れんばかりの拍手が出迎えたのだった。どよめきが収まらぬうちに第3部が始まる。1曲目「ビューティフル・ラブ」、2曲目「トリステ」。これだけで初聴きとなる荒武の傑出した才量に圧倒された。3曲目は彼が敬愛してやまない本田竹廣さんの「シー・ロード」、本田さんのアーシーでダイナミックな精神の延長上を疾走した。4曲目は岩手県を訪れた時にそこに流れる“閉伊(へい)川”をモチーフとした同名のタイトル曲で、これはベースとのデュオで演奏された。曲想からゆったり流れている川の情景を説いてきかせる逸品。最後は「夕焼け」というオリジナル。曲名から和のフレーバーなものかと思いきや、ラテン系のエネルギシュかつノリノリの曲で、カリブ海のサンセットは欠航禍にトドメを刺す大熱演であった。アンコールはピアノソロで、これも本田さんの「ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ」。この情熱の上をリリカルさが漂う演奏によって、荒武は限られた時間の中で伝えようとしたことを伝え切ったのだ。
この店には東京からのミュージシャンが頻繁にやって来る。今日も東京にはまだ見ぬ素晴らしいミュージシャンがいるものだとつくづく思い知らされた。東京は23区ではなく、そろそろ音楽的区画変更によりここを離れの24区目としてもいいんじぁないか。変則の一夜を貴重なものに導いていった4人の熱意を感じながらそう思った。災い転じて福となす。まだまだこれは序章である。本田イズムの透徹した継承者荒武は必ずや全貌を引っさげて再び登場するに違いないのだ。
(M・Flanagan)