田中奈緒子(p)若井俊也(b)西村匠平(ds)
何やら外が騒がしい。我が国において“jazz”は“改ざん音楽”と訳さなければならないようである。お互い裏で成り立つ闇社会だから笑えない。都合悪くなるとメンバーに責任転嫁するバンマスもいそうだから青ざめる。まぁ、カルロス・序文はこのくらいにしておこう。
さあ、13周年Vol.2は、LBの密使若井の推薦するピアニスト田中の初登場である。これまでの若井の人選経緯からただ者ではないに違いない。早速、流れの沿って進めてみよう。1曲目は「ス・ワンダフル」、かなり凝ったアレンジで、一聴、原曲と結びつかないユニークなものである。2曲目はドナルド・ブラウンなる人の「ワルツ・フォー・モンク」というモンクを想起させないモンクに捧げられた面白い曲。この2曲までの印象速報としては、小気味いいいが少し小ぢんまりしている感じで、この後や如何に?の思いを持つ。すると俄かに田中も13周年の雰囲気に慣れてきた風である。3曲目、スタンダードの「ユー・マスト・ビリーブ・イン・スプリング」当たりから思い切りが良くなってきた。4曲目のオリジナル「アプリシエイション」になると若井が狙っている渾然一体のインタープレイが展開され、若井と気っ風のよい西村に乗っかって田中の持ち味もはっきり捕まえられてきた。5曲目はアップ・テンポの「ニュー・ヨーク・アティテュード」というK・バロンの曲である。敬愛する演奏家の曲に彼女のスピード感がよく似合っていた。2nd.の最初はシダー・ウォルトンの「ハインド・サイト」という曲だった。彼女によればこの曲はN・Yではスタンダードのように演奏されているらしい。印象としてはバップ後期のスリルとエレガンスがカップリングされたような曲だ。面白いのは次の「プレリュード・トゥ・ア・キス」、聴き馴染んだテンポより相当速く、この前奏曲に対応できる接吻はイタリア映画に出て来る開放的な庶民の男女だけだろう。3曲目のD・ピアソンの「イズ・ザット・ソー?」の段階になると田中の資質全開になって来ているのが分かる。次は4曲目あたりの指定席であるバラード、「ボディー&ソウル」だったが端正にまとめられていた。一度バラード中心のライブを聴いて見たいものだ。多分、田中が今日やりたかった曲を最後にぶっつけてきたのだろう、オリジナルの「ミュータント・タートルズ」、これはアップ・テンポの曲。演奏家が楽しめているかどうかを聴き手は結構正確に見ている。田中と若井・西村、生き生きした演奏とは華と根の部分が絶妙に繋がっていなければならない。それによって総力をあげた演奏になるのだ。アンコールは「アイブ・ネバー・ビーン・イン・ラブ・ビフォー」で余すとこなく終了。一夜聴いた結果として、田中の全貌とは言わないまでもその才気の片鱗は十分伝わってきた。田中は客の反応をしっかり心に納めて東京に向かったはずである。
因みに江戸の後期に起こったのはシーボルト事件だが、この13周年においては田中菜緒子の“She Vol.2事件”ということにしておく。
(M・Flanagan)