2018.4.27 超絶技巧DUO

魚坂明未(p) 楠井五月(b)
 最近のBROGにおいて、宣伝文句の難しさが吐露されている。この二人には“超絶技巧DUO”と銘打ったものの、どう受け取られるのか躊躇の感をぬぐえない様子が伝えられている。そうではあっても、“これが最後のLIVE!”と言いながら、その後も延々と活動している騙しよりも正直で良いのではないか。本論に戻して、今回も“LB・プレゼンツ・今後を担う若手シリーズ”の一環として招聘されたDUOである。ピアノの魚返については、昨秋『. Push(ドット・プシュ)』で初演を果たしていたが、その時は機を逸したので筆者には初聴きである。ベースの楠井については菊池太光(p)とのDUOで二度聴いているが、この時も超絶技巧の隅から隅まで突き付けられた格好であった。さて、この両者は普段Ds.の石若駿が入ったトリオで活動していて、DUOはLBが初というのも値打ちものである。選曲はスタンダードおよび隠れスタンダードそしてオリジナルという構成である。初期のスタンダーズに名演が残されている「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」、このDUOではバップ感が抑えられたD・ガレスピーの「アイ・ウェイテド・フォー・ユー」、魚返のアルバムから「スティープ・スロープ」という中々の佳曲、いいタイミングで豪快にブルースする「ウォーキン」、続いて魚返の曲で「そばに離れて」という現実的には不可能な所作の題名ではあるが演奏に捩じれた感じはない逸品。次も彼の出来立てでタイトル待ちの曲。彼の曲には優れて端正さを感ずるが、その素材に演奏家として手を加えていくプロセスを楽しんでいるかのようなのである。次はミュージカルから「ストーミー・ウェザー」、荒れた天気に巻き込まれたというよりは窓から外を眺めながら物思いに耽っているような演奏。これもミュージカルからマイルスやロリンズで有名な「飾りのついた四輪馬車」で心が和んでしまいました。品のある歌もの「ブラックベリー・ウィンター」を情感たっぷりに挟んで、最後は魚返作の「エンブレイシング・ラダー」で、直訳は“梯子を抱きしめて”という瓦職人の姿しか思い浮かばないような不思議なタイトルだが、演奏の方はというと一切ハシゴを外すことのない両者のまさに“超絶技巧DUO”という宣伝文句に相応しく全開する凄まじい一級品。50年前にキースとペデルセンがDUOをしていたらこんな感じになったかも。アンコールはドット・プシュに魚返が提供した「パート・ワン」、心地よく寄り添ってくる旋律の曲を終わりに持ってきて鮮やか。
魚返は既に高い完成域に位置していると思われ、改めて聴いて見たいと思わせるに十分な逸材と受け止めた。一方の雄、楠井を言い表すのは難しい。フィギアスケートにはトリプル・ルッソとか素人の動体視力では回転数が分からないなりに、着地が決まって湧きかえることがある。楠井の演奏もそうした感じがする。ところで、今節、直前まで魚返をオガエリと読むことを知らなかった。何れにせよ、我が国若手ピアノの筆頭出世魚としてLBの生けすにかくまって置きたいところだ。
(M・Flanagan)