大口純一郎(p)林 栄一(as)秋田祐二(b)伊藤宏樹(ds)
いきない脱線しよう。先ごろ亡くなったR・ストーンズのチャーリー・ワッツは自称“ジャズをこよなく愛するロックドラマー”だ。彼は少年時代にジャズに魅せられたものの、家にドラムを買える余裕がなく、そこで彼はバンジョーを改造してスネア代わりに練習を積んだという逸話がある。そういう出自をことさら美化するつもりはないが、後に名声を博するか否かに拘らず、おそらく50年のキャリアを重ねる演奏家の中にはそれに類する体験者がいると思われる。飽くまで想像でしかないが、演奏を聴いていていると林さんにもそういうことがあったのではないかという気になる。林さんのライブに接した機会は決して多くはないのだが、林さんに付き纏うイメージは長らく変わっていない。それは一貫してアンダーグラウンド感が漂っているような印象である。いわば公のルールでは裁くことの出来ない天賦の資質と言ってもいい。この日も演奏から演奏外の何か得体の知れないものを感じていた。筆者にとってそれが林さんなのである。一方の大口さんにもそれを感ずるのだが、溢れだす閃きは両者に共通していてもその質感には差異があり、それを直に味わうことはライブの重要な面白みである。それにしてもこの方たちのエネルギーはどこから湧き出してくるのか。数多くの音楽データが蓄積されているお二人の筈だが、おそらく“今日はこれまで以上にベストな演奏をする”、そういう演奏覚悟のようなものがエネルギーの出どころではないかと思えるのだが、どうだろうか。まぁ巨匠評は二の足を踏むもので、本文は欠員レポーターのトラとしてチャーリー・ワッツに援護して貰った次第である。演奏曲は「Goodbye pork pie hat」、「Four in one」、「You don’t know what love is」、「回想(林)」、「Better get hit in your soul」、「New moon(大口)」、「What is this thing called love」、「ノー・シーズ(林)」そしてアンコールはブラジルもの。上昇しながら構築する曲も、横へ横へと流れていく曲も独自性に溢れていたと思うのであるが、おしなべてタフな演奏の連続だった。従って、ベースもドラムスも心身ともに運動性量が限界に達していたのではないかと思われる。上手いこと言えないが、おどろおどろしさに咲くファンタジーがこのライブだ。
実はこのライブ、カニBAND北海道ツアーの谷間に嵌め込まれた唯一のカルテット企画である。そこに惹かれて来られた人もいたようであるが、分かるような気がする。
ところで「Jazz Advancing」とはいまなお前進して止まない御大に捧げた標題である。その出典はセシル・テイラーの「Jazz Advance」だ。芸術家の家計簿は知名度ほどにはアドヴァンスしていないんだろうな(泣)。
(M・Flanagan)