2021.11.6  竹村一哲G LIVE!『村雨』

井上銘(g)魚返明未(p)三嶋大輝(b)竹村一哲(ds)
昨年春のこのグループによるLIVEはセンセーショナルなものだった。その時が初登場の井上銘に注目していたが、バンドとしての傑出したトータリティーに驚かされたものだ。その後、レコーディング計画が持ち上がっていることを耳にしていたが、程なくこの『村雨』がリーリースされたのである。一連の流れから待ちに待ったタイミングでこの日を迎えたと言っていい。午後8時、会場はいつの間にか人で溢れ、それはこの1年半余りにひと区切りをつけ、ようやく時計が動き出したかのようであった。竹村は決め事を極力排除することで、演奏するとは何かという追求心をグリップして離さないドラマーだ。彼を十代のころから聴いているが、懐かしさに微笑んでいる場合ではない。このグループは現時点における彼の集大成、つまり、実録竹村一哲ここに至る意味しており、彼の第一回記念碑なのだ。こっちも力が入るが、気分を鎮めて早々に演奏曲を紹介しよう。「MOZU」、「RN」、「悲しい青空」、「Spiral Dance」、「Normal Temperature」、「Vera Cruz」、「ノウ(板谷)」、「村雨」、「Lost Visions」。オリジナル曲が中心に構成されているが、思いもよらぬ「Vera Cruz」のイントロを聴いて、たちまち数々の名演を残して去っっていった津村和彦の顔が脳裏に襲いかかってきた。それに続きリスペクトと追悼の意を込めて板谷大の曲を演じたときは、その曲調が大らかな分だけ目尻の調整が効かなくなってしまった。感傷を取り除いて進めよう。既に述べたように竹村の目論見はメンバーの自由度を極力高めることにあるので、同一曲はいつも新曲に聞こえる。どのミュージシャンもそれを目指しているに違いないが、しかし、それを如実に体感できることはそう多いことではない。少しくらい遊んだらと思はないではないが、どこをどう切り取っても一貫して緩みがない。私たちはこの快感にヘトヘトになることを受け入れざるを得なくなったのだった。それでは、メンバーの様子を少しばかり振り返りたい。井上はジャンル横断歴なプレイヤーなので、普段は眠っている神経が覚醒させられる。敬愛するP・マルティーノ風フレーズを忍び込ませていたのもゴキゲンの上積みだ。兎に角、井上の演奏には努力では身につけられない資質の恵による華があるのだ。魚返の演奏は結構聴いているが、この日の止めるに止められないエモーションの噴出には、腰を抜かした。これは特筆しておくべきことに違いなく、これまでの見積もりの甘さを反省する。三嶋はいつも演奏が嬉しくて堪らないのだ。メンバーから新しいアイディアが提供されると必ずニンマリしている。LBのベース指定3席の一角を奪取するのはハードルが高いが、それ近づいているかもしれない奮闘ぶりだった。そして竹村一哲。全ての曲において後ろからの支配権を全開で行使していたように思う。細かいことは抜きにして、その途切れを知らない集中力に並々ならない意気込みが伝わって来る。堅実なサポートなどと言って済ます訳にはいかないのだ。纏めがたきを纏め上げた竹村に心からの賛辞を贈りたい。
余談になるが、入口の“本日のライブ”に、竹村一哲G・・・井上銘g・・・となっていた。Gはグループのことだが、開演前、彼らは談笑していた。“今日は大っきいのと普通のとツイン・ギターなんだ”。演奏中にそんな和んだ雰囲気は何処をどう探しても見当たらない。ライブから数日経た今も、LIVE!『村雨』が頭の中で鳴り続いている。
(M・Flanagan)