ここ数年来、東京を拠点にしている若手を招くことが、LBのひとつの柱となっている。この企画がなければ、彼らは見たことも聴いたこともない連中のままになっていた可能性が大いにある。三嶋の初演は2年半ほど前に過ぎないのだが、以降、彼はサイドマンとして抜かりなく出演機会をモノにして来ている。ただ今回は、三嶋の仕切りでライブを挙行することになっており、そこに課された条件は、現時点で想定される最高のメンバーを人選し、最高の演奏をすることだったという。そして我々は三嶋のギャンブルに巻き込まれていくことになったのである。
2021.7.1 PassioNate Renner 4
Nate Renner(g)本山禎朗(p)三嶋大輝(b)柳沼祐育(ds)
この日は、当地でコンスタントに活躍するネイトのリーダー・カルテット。ネイトはJ・ホールがお好みらしいが、直接的な影響は感じられない。演奏家によっては先人の影響が割と露骨になっていることもあれば、表に出ることなく内的蓄えに留められていることもあるだろう。ネイトは後者に属しているので、彼独自のフィーリングから押し出されるフレーズがそれをよく物語っている。話しは飛ぶが、今はフュージョン絶頂期のようにギターでお客さんを呼ぶことが珍しくなった時代だと言える。それは逆に落ち着いてギターを聴くべき時代になっているのではないかとも思う。そうした時代だからこそネイトには一層のPassioNATEな活躍を期待する。演奏曲は「All Of You」、「Finding Our Feet」、「On A Misty Night」、「9th February~Mono Koko」、「The Way You Look Tonight」、「Moment’s Notice」。なお、柳沼は最近招聘されない匠平(西村)の後輩筋になるそうだ。明日も期待が膨らむ中々のプレイだ。
2021.7.2 三嶋大輝TRIO
加藤友彦(p)三嶋大輝(b)柳沼祐育(ds)
これが三嶋の真価が問われる注目のTRIOだ。聞けば月に一度のペースで演っているとのことである。言わば彼らは、気心の知れる域に入っているのだが、慣れによる予定調和は決して許されないことを覚悟した三嶋はリハに普段の倍ほど時間を費やしたらしい。それはこの日に賭ける三嶋の愚直なまでのメッセージであるが、それは実際のライブ・パフォーマンスの出来は全くは別のことである。筆者は三嶋が毎回ひと山越えてやって来るので、意識的にハードルを上げて聴いている。なおかつ今回は三嶋の統率力も注目して置かなければならない。ここで演奏曲を紹介する。「Time After Time」、「You Stepped Out Of Me」、「You’ve Changed」、「Martha’s’ Prize 」、「In The Still Of The Night」、「Nearness Of You」、「Cakewalk」、「Fly Me To The Moon」。“いる所にはいるものだ”、ピアノの加藤、まだ二十代半ばである。瑞々しさを湛えながらも臨機応変に攻勢をかけるところにはその才量を認めぬ訳にはいかない。そして前の日に肯定すべき片鱗を見せつけていた柳沼は、この日もケレン味のないタイトなプレイを披露しており、彼ら二人は三嶋の土台音に乗っかって清心な印象を刻んでいったのだった。唯一気がかりだったのは、気合の入りすぎによる勢い任せの大芝居だったが、そんな心配を見事に引っくり返してくれた。
店内にはもちろん川は流れていないが、三嶋はTRIOと客席の間にきっちり橋をかけていった。若きM・ヴィトウスに“限りなき探求“という作品がある。若き三嶋の奮闘に”限りなきThank You“を献上する。三嶋からSpecial Gift(大輝ん星)を貰ったのである。
(M・Flanagan)