池田篤(as、ss)本山禎朗(p)北垣響(b)伊藤宏樹(ds)
いま池田は尊い活動を行っている。共演歴が長く、また、多くの影響を受けてきた辛島文雄さんの闘病生活を支援するため、2013~2014でのピット・イン・ライブを1枚にまとめたCDを自主制作し、この購入を広く呼びかけている。既に1000枚を突破せんとし、更にオーダーが増えているという。筆者も手に入れたが素晴らし演奏が詰め込まれている。詳細は池田篤のウェブサイトで確認のうえ是非とも協力して頂きたい。標題は池田に敬意を表し、ジャズ批評家の油井正一氏による昔のラジオ番組「アスペクト・イン・ジャズ」から拝借した。
さて、池田は3月に続き今年2度目の登場になる。前回はバンマス・ジャックに巻き込まれながらも堂々と人質を務め、懐の深さを見せつけたのが記憶に新しい。今回はメンバー構成から言って、事件と事故の両面ともその可能性がなく、安心特約付きライブだ。ここで池田聴き歴をまとめると、何でもできる池田の時代から池田にしかできない池田の時代になったという感慨に尽きる。近年の楽しみは二つあるが、一つはバラードでの胸中から滲んでくる音、もう一つはあたかも後ろにオーケストラがいるかのような圧倒的なドライブ感だ。
演奏曲を羅列してみよう。モブレーの佳曲「ジス・アイ・ディグ・オブ・ユー」、不思議な天才ショーターの「ユナイテッド」、池田が影響を受けたというC・マクファーソンの「ナイト・アイズ」、同じくJ・マクリーンの「マイナー・マーチ」、歴史的名演を持つ「ラバー・マン」、ショーターの友人が書いたという「デ・ポワ・ド・アモール・バッジオ」(恋の終わりは空しいという意味らしい)、黒い情念マルの「ソウル・アイズ」、選曲される王者モンクの「ティンクル・ティンクル」、池田のみが演奏を許されている「フレイム・オブ・ピース」、3月にリクエストしたのが奏功したか分からないがスリル満点の「インプレッションズ」、怪しさ漂うバラード「ダーン・ザット・ドリーム」、最早我らのナツメロ「パッション・ダンス」、辛島さんに捧げた直訳風タイトル「スパイシー・アイランド」は未開が覆うモンスターな島の物語だ。最後はブルース、イントロで池田は「ドナ・リー」やら「ホット・ハウス」やら「コンファメーション」やらを散りばめた長尺ソロで場内制圧、その終息と同時にルーズなテーマに突入。このくだけた極楽とともに幕がおりた。また、バック陣の奮闘ぶりも好ましく、彼ら多量の発汗によって立派な“ほっちゃれ”になっていたようだ。
余話一つ。LBには付属施設としてジャズ幼稚舎という家柄を問わないバンドがある。諸事情から札幌を離れた連中が心の故郷と慕うLBに時折顔を出す。この二日の間、カナダからマークが3年ぶりにサプライズ来場、首都圏からサックス主任S名とスランプ対策係長H瀬、その他行方不明中の人物も姿を現していたようだ。そこに数名の固定メンバーが出迎えていた。いい光景ではないか。
(M・Flanagan)