5.6 鹿川暁弓TRIO 鹿川暁弓(p)若井俊也(b)山田玲(ds)
独自の美意識から異彩を放つ鹿川と東京戦線で活躍する若井と山田との初競演。筆者は鹿川のソロしか聴いたことがなく、必然的にコンボ編成での応酬に関心がいく。以下が演奏曲である。
「In A Sentimental Mood」、「There Is No Greater Love」、「Lonely Woman」、「Hot House」、「Reverie」、「I Hear A Rhapsody」、「Time Waits」、「My Conception」。スタンダードやバップの曲が並んでいるのは少し意外な感じがした。その演奏はソロのときとは異なる印象だ。折角手合わせする相手だからだろうか、押し返すような力強さや冒険心が覗いていたように思う。聴き手がそう思うのだから、本人はスイッチが入りっぱなしだったのだろう。バラードにおいても流れ出す曲においても、彼女を特徴付けるクラシカルなニュアンスを失うことなく作用させていたところに、自身の演奏に向かう姿勢がよく出ていたように思う。なお、鹿川の演奏に狙い目を付ける人をディア・ハンターと言うかどうかは今のところ分かりかねる。 .
5.7 本山3feat.村田千紘 本山禎朗(p)村田千紘(tp) 若井俊也(b)山田玲(ds)
予定されていた池田篤2daysが事情により延期になってしまい、これは変更プログラムの初日である。実は村田を聴いいたことがない。話によればLBで何度か演奏している田中菜緒子(p)との『村田中』というユニットを中心に活動して来たとのことである。初モノを前にすると気が引き締まるものだが、そんな思いに耽る間もなく、時間制限下の4人編成はスタートを切っていった。最初にG・グライス「In A Night At Tony’s」、急遽客演が決まったとはいえ、原曲のゴキゲンな乗りを一発達成、これだけでおおよそ力量が伝わってくる。A・C・ジョビン「Meditation」の柔らかな冥道感にも味わいがある。我々の良好な助べい根性は、ライブではこんな曲を演って欲しいと願うときがある。その思いが通じたのだろうか「Blue In Green」。選曲も演奏も願ったり叶ったりの素晴らしい出来ばえだ。知名度ほどには聴かれていないと思われるE・マルサリスの「Swing’n At The City」、軽快なミディアム・テンポが気分をほぐす。T・ジョーンズ「Lady Luck」、翌日のトリオ演奏への誘い水か、トランペットが聴きどころの曲にも関わらず、意表を突いて村田レスのトリオ演奏であった。再び村田が入る。LBではあのテナー奏者が何度か採り上げるマイルスの「Baplicity」。初めて聴いたT・シールマンス「For My Lady」、曲の親しみ易さ以上に品を感じさせる。最後は勝手な思い込みではあるがG・グライスの最も有名な「Minority」、これはMajorityが太鼓判を押すだろうアグレッシヴで立派な演奏。少し逸脱を許して頂こう。この国においては、「女性活躍」なる俗な4字を見かけるようになって久しいが、それは男女が同一の地平にいる存在であることよりも、単に男の肩代わりとしての女性像しか期待していないことが透けて見える。村田も前日の鹿川もその音によって、乱暴を働く事なくそれを打ち消していたように思う。いずれ村田の再演があると思うので、その日を楽しみにしたい。
5.8本山揁朗(p)若井俊也(b)山田玲(ds)
本来フロントにいるべき池田の不在によって、かなりのプレッシャーが掛かっているだろう。池田がいるに匹敵するパフォーマンスを、自らにもリッスナーに対しても納得いく形で求められるからだ。そんなことを思いながらも、このトリオはトリオとしての演るべきことをやっていたと言ってよいのではないか。ほぼ同世代に属しているこの3人は、彼らの音楽意識として透明性を目指すというより、濁り化を残しながらその状態の純度を高めようとしているように思う。彼らがそう思っていないとしても、それはジャズとは何かと問われた時にありうる幾通りかの答えの一つになると思う。面倒な話しを程々にして、この日の演奏曲は、「You&The night&The Music」、「Miles Ahead」、「These Foolish Things」、「Buch&Buch」、「Pensativa」、「We See」、「Fingers In The Window」、「I Remenber April」、「In sentimental Mood」。では、一言づつ。本山は我ここにありに手が届いている。若井の融通無碍なプレイには今回も関心した。山田、音という音を芯で響かせる才腕ドラマーである。
今般この周年第2弾は、汚れっちまった世の中に今日も悪夢が降りかかる状況下で行われた。言いたい事はそれなりにあるが、今日は50年代のマイルスを聴いて心を鎮めることにする。
(M・Flanagan)