威風堂々・時々普通

2015.7.25 
中本マリ(Vo)米木康志(b)加納新吾(p)
ご存知のとおりマリさんは長らくギターの太田雄二とのデュオによる活動を続けてきた。太田の卓越した技量がボーカルを支えきる見事なデュオだった。今回はオーソドックスなボーカル・トリオ編成で帰って来た。早速、納得のピアノとベースが後ろのライブをなぞってみよう。ミュージカルのバラードから「リトル・ガール・ブルー」、お馴染みの「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」でたっぷりスイング。ブルース・フィーリング溢れる「ユー・ドゥ・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」から「ジョージア・オン・マイ・マインド」へと畳みかける。かつて恋仲・今はただの友「ジャスト・フレンズ」、行方不明になった夫との刹那的再会が忘れられない名画「ひまわり」はソフィア・ローレンの目のように恐ろしい。マリさんのデビューアルバムから「プリーズ・センド・ミー・サムワン・トゥ・ラブ」、大人だから独占できる「エンブレイサブル・ユー」、エネルギッシュに「オールド・デビル・ムーン」、コルトレーン風じゃなくこの曲はこうなのよと言わんばかりの「マイ・フェイバリット・シングス」、しっとりと「ガール・トーク」、オリジナル2曲を挟んで、盛り上がり宣言の「ラブ・フォー・セイル」、アンコールは「ミスティー」で高級リンスのような潤いだ。もう少し分け入ってみる。手堅い後ろをキャンバスに仕立てにして自家製の絵を仕上げていくマリさんがいる。先人たちが通った道を自分の歩み方で踏み固めて来たのだという確信が伝わってくる。マリさんに感ずるのはこうした確信の強さだが、これは表に出ることはない。表にはボーカリスト中本マリがいるだけだ。マリさんは、やりたいことだけをやる。それが極上のエンターテインメントとして完成してしまうのは、マリさんの築き上げた実力そのもので、まさに威風堂々だ。
折角なので、ピアニスト加納について少し解説すると、本拠地は大阪で、その演奏を耳にしたマリさんが速攻チャージを仕掛けたという新進気鋭だ。彼は音色も人となりも端正で全国的大阪のイメージとは異なる。追々、あちこちでその名を目にするかもしれない。このライブの頃、東京は折からの猛暑、朝晩の北海道は快適な避暑の圏外にあり、マリさんは小さい風邪をひいたらしい。ステージを離れるとごく普通の人だ。
(M・Flanagan)