2016.12.2-3 「IT‘S YOU.池田篤」
池田篤(sax)若井俊也(b)本山禎朗(p)伊藤宏樹(ds)
一旦雪が解けたとはいえ冷気に震える札幌。ところが、僅かドア1枚を隔てた池田2Daysの空間は、灯油ストーブですら嗚咽する熱気を提供してくれたのだった。池田は年2回のペースで来演しているが、近年は毎回が全盛期の様相を呈している。周知のとおり、その突出した技量から若くして我が国のジャズ・シーンに登場した池田だが、今や天賦の才を絶やすことなく、そして人間池田篤としての音楽に到達していると言ってよい。演奏家の最難関とされる“自分の音を出せること”、その領域に踏み込んだ者は、最早、新たに付け加えるものを必要としていないのだろう。演奏しているその姿から、長年かけて引き寄せた“まだ見ぬ音”との格闘のドラマを眺め返しながら、現在を出し切っているように感ずるのだ。
相当前のことになるが、池田がリー・コニッツを好んでいることを直接聞いたことがある。
今回のMCでそれは思っていた以上のことだと知った。池田がNYにいたころ(多分‘90年頃と推測する)、住まいが近く道ですれ違うこともあったらしいが、鬼才に中々声を掛けるに至らなかったという。大きく時を経て2年ほど前、東京で対話する機会に恵まれたそうだ。その終わりに記念写真を申し入れたところ、“今日は疲れている”とのことで惜しくも実現しなかったらしい。そのコニッツに“It’s you.”という曲があり、彼からそう言われたと仮定して作った曲が「Is it me?」だそうである。出だしから完全にコニッツ風の曲想に笑みがこぼれるが、演奏は“音追求の鬼“と言われるコニッツ然としたものであった。
池田は、毎年、琉球最南端の島に家族旅行するとのことだ。今年持ち帰った愛称“まきちゃん”という貝に捧げた「巻き貝」という曲、ほのぼのしつつも音の芯が見え隠れする。そして池田の最重要曲「フレイム・オブ・ピース」、毎回演奏してくれるので冷静に比較したいが、いつも今回が一番感動的という結果になる。熟して止まないということだろう。両日とも闘病中の辛島さんの回復を願う「スパイシー・アイランド」が演奏された。心の師への思いが乗り移った異様な完成度が胸を打つ。最後の最後に長尺のアルト独奏があり「インプレッションズ」に突入した。コルトレーンのファンには申し訳ないが、池田の演奏の方が筆者のフェイバリットだ。共演者について書き添えると、別ルートで合流したベースの若井は伝統の上に新しい個性を乗っけていて、相変わらず可能性満点だ。地元選出の2人も力を引き出されて全力で格闘している様は立派なものであった。その他の演奏曲は、「デルージ」、「ウィル・ビー・トゥギャザー・アゲイン」、「セントラル・パーク・ウエスト」、「Yes or No」、「フォーリャス・セーカス」など。当然の帰結で締めておこう。一択問題「Is it me?」のアンサーは、勿論“It’s you.池田篤”だ。
かつてススキノにあったライブ・ハウスでリー・コニッツのライブを聴いたことがある。その時、幸運にも筆者はツーショットを得ることができた。今も大切な一枚だが、流石にそれを池田には伝えられなかった。
(M・Flanagan)