2017.12.15 イクタス:Jazzの道はヘビー

本田珠也(ds)佐藤浩市(p)須川崇(b) 
〔イクタス〕というのはバンド名でカーラ・ブレイの曲名から拝借したという。このバンドは、そのカーラやP・ブレイ、菊地雅章さんの築いてきたものの中に、そしてその延長上に新たな音楽を見出すことを指標としているようである。それを考えただけでやや身構えてしまう。カーラといえば、「ローンズ」や「アイダ・ルピノ」といったメロディーの輪郭が明瞭な曲が群を抜いて有名であるが、凡人には容易に呑み込めないものが多数ある。P・ブレイも「Mr.Joy」のような名曲が思い出されるが、言うなれば無機質なものが主体でJazzの“ごきげん感”とは距離を置いている。「今日は余り知られていないものをやる」というMCのもと演奏が開始された。聴き進むにつれ、菊地雅章さんがG・ピーコックとP・モチアンとで結成していた“テザート・ムーン”の世界のように聴こえた。そのT・ムーンは難解というより妥協のない音楽をやる集団である。スタンダードを演奏してもその異様な掘り下げ方は他に類例をみないものだった。この〔イクタス〕も方向性において同質な印象を受ける。この日演奏したスタンダード「イット・ネバー・エンタード・マインド」と「アイ・シュッド・ケア」にそれを見て採れるし、大半を占めたカーラの曲においても同様である。本田珠也はおよそ25年前コード楽器の制約を排して自由を獲得するため臼庭・米木とトリオを組み、以後もフリーほか様々なコンセプトで自己表現の場を拡大してきた。そして今日においても複数のバンドで野心的な取り組みを行っており、その内容の厳しさに関わらず確実に成果を収めて来ている。いま本田珠也は先人たちの遺産を最良の形で後の世代に引き継ごうとしている。その支柱となるのが、日本人としてこれまでにない “和Jazz”の確立を標榜することである。本田珠也は今を走り抜くことによって日本のJazzシーンの中に自叙伝を書き始めている節があり、極限を怖がらない彼の闘争心はいつも“jazzの道はヘビー”と云わざるを得ないものだ。演奏曲は上述のスタンダードほかカーラの「アンド・ナウ・ザ・クイーン」、「マジカル」、「バッテリー」、「サッド・ソング」、「イクタス」、ピアノ佐藤の「ヘブン」と「無題」、オーネットの「ホエン・ザ・ブルース・リーブ?」。
P・ブレイはかつてこんなことを言っていた。「成功の秘訣は失敗の熟知にある。失敗を目指した方が早い。」この発言の核心は試行錯誤のイマジネーションである。そこを捕まえ損ねると失敗は失敗に終わるんだろうな。(にが笑)
(追)今年のライブ・レポートは、前回で終了する予定のところ、このトリオを聴いて頭のカタヨリが矯正されたのか、敢えてダメ押しの一手を差した次第なり。
(M・Flanagan)