2023.9.1-2  鈴木央紹 完璧トリオ

鈴木央紹(ts)荻原 亮(g)若井俊也(b)
 ライブに行こうとする時に迷うことなく足が向く演奏家が少なからずいる。鈴木央紹は間違いなくその一人だ。こうした演奏家に巡り会えることを世間では「幸運」と言ってるらしい。その鈴木のニュー・アルバム「Stars&Smiles」がリリースされ、絶好のタイミングで今回のトリオ・ライブがブッキングされた。鈴木と若井は出演番付の上位者なのでお馴染みだが、荻原はおよそ5年振りのブランク永井だとなる。いずれ実力者なのだが、何と言ってもテナー、ギター、ベースという編成が魅力的だ。鈴木によればレコーディングに当たって、夫々がブースに入るのではなく、敢えてフロアに三者揃って演奏する方式を採ったということだ。つまりメンバー同士が息遣いをキャッチしたりアイ・コンタクトが十分可能となる条件設定だ。このシチュエーションは客を入れないライブに相当するので、演奏に仮想の臨場感を持ち込むことを狙いとしていたのだろう。その仮想を剝がしたのが、このLBライブということになる。何でもレコーディングに当たって、50曲をほぼワン・テイクで収録し、そのうち20曲をカット、30曲を厳選して2枚のCDにまとめたということだ。その第一弾がこの「Stars&Smiles」になっている。ライブでの選曲はそこに収められた曲を中心に進んで行く。その曲群を紹介する。「So Many Stars」「Milestones」「Wrap Your Troubles In Your Dream」「All My Tomorrows」「Groovin’ High」「Lucky Southern」「Little Willie Leaps」「Dreamsville」「You Say You Care」「Someday My Prince Will Come 」「Turn Out The Stars」「Hullcinations」「The Touch Of Your Lips」「Where Are You?」「Baubles,Bangles&Beads」「Get Out Of Town」「I’m Old Fashioned」「I Cover The Water Front」「Peri’s Scope」「Moon River」。筆者の狭い聴き歴で恐縮だが、ここにはよく聴く曲とそうでもない曲が混在している。途中で不思議に思ったことがある。それはどの曲も耳馴染みあるように感じられたことだ。答えは向こうからやって来た。鈴木のMCで「ハーモニーへの気遣い」についての語りがあった。我々の耳にすぅ~と入ってくるのは矢張りスーパー・ハーモナイズされた彼らの演奏によるものだと考えれば納得できる。バンマス仕切りのもとギターとベースは全曲について手を休めるひと時もないハード・ワークだ。鈴木スキ無し、荻原ミス無し、若井ムダ無し、我ら言うこと無し。言わば会場が調和していたのである。これは「完璧トリオ」によるパーフェクト・ゲームだ。終焉後、そこはかとなくドラムが入る時入らない時談義が聞こえてきた。どこかの空の下で「原たち日記」がアップさていたかも知れないな。なお、シリーズ第二弾は歌モノを揃えた「Songs」というタイトルで、近くリリースされることになっている。これに合わせて、11月に再び鈴木がやって来る。北区役所に転入届を出す勢いの長期企画であるらしい。皆さん「幸運」に巡り会うべく聴きに来てみなはれ。
(M・Flanagan)