大野エリ(vo) 石田衛(p)米木康志(b)小山彰太(ds)
7月はシング・シング・シングにつきる。よってメニューの立役者は「ボーカル漬け」である。いずれも糠床が格好よく発酵していて聴き応え十分だった。そしてこの月のライブ循環は大野エリの王道において解決をみた。彼女のそもそものエネルギー源は、ボーカルが別物扱いされることへの不信感を単なる不満に留めることなく、対等な肉声楽器に昇華させようとする自意識の強さだ。それが既に確立されている“私のカタチ”を超えて自らが取りうる可能性を徹底追求しているように感じさせるのだ。言い換えると、彼女に対する最も舌鋒鋭い批評家は彼女自身である。但し、ステージではその苦行難行は見つけることはできない。プロフェッショナルな誇りをもって自らの“楽器”を演奏しているだけなのである。解説を加えすぎるのは宜しくない、今日も素晴らしかったとだけ言っておく。バックのピアニスト石田を初めて聴いて、目立たないところに沢山の仕掛けがあった。“隠し味、自分だけしか、うなずかず”。このつまらない川柳ふうはある評論家の一言をもとに捻った。彼が云うには“作品の良さとは読者が自分にしか分からないだろうと感じさせるものが優れている”。これを信ずるならば、このピアニストはそういう感じをさせてくれていて興味深い。誤解しないでほしいのは、ある曲の途中で石田は一瞬“ラバー・カムバック・トゥ・ミー”のサビを引用したが、それに気付いたかどうかを言っている訳ではなく、自分だけに響いていると思わせるものがあったかどうかを言っているので要注意。それからショータさんのここぞという時の一撃、米木さんの背骨の太さについては付け加えることは何もない。曲は、「ジャスト・イン・タイム」、「リフレクションズ」「コンファメーション」、「マジック・サンバ」、「ブルー・イン・グリーン」、「アイム・オールド・ファッションドゥ」、「ハウ・マイ・ハート・シングス」、「リトル・チャイルド・“クリスティーナ”」、「ジス・キャント・ビー・ラブ」、「カム・アラウンド・ラブ」、「イン・ザ・タイム・オブ・ザ・シルバー・レイン」、「アップル追分」、「ブラックバード~バイ・バイ・ブラックバード」、「アイ・ラブ・ユー・マッドリー」などスタンダードを始めベーシストB・ウイリアムスの曲、エリさんの曲で、殆どエリさんのアルバムからピック・アップされていた。
ボーカルを別物扱いにしている人はまだまだ大勢いいると思われる。筆者自身も例外ではなかった。経験則に従えばシング・シング・シングにある程度リッスンを対応させていれば、いつか貴方は歌にとってのグッドマンになることができる。今回のレポートはここからが重要である。ボーカル・ライブの日は女性のお客さんが多い。ジンジャーかウーロンで人生が変わり得ることに期待を込めてレイジー・バードに足を運ぶことをお勧めする。
(M・Flanagan)