その日は田中朋子sextetのライブであった。最後の曲で奥野がフリーキーな音を出し曲を盛り上げていた。一人の外国人がペットボトルを飲みながら入ってきた。ペデルセンの様な風貌であった。音量が大きく店のシステムなど説明できる状況ではなかったので取りあえず最後の曲である事だけを告げた。普通は「オー、マイガッド」とか何とか云いながら立ち去るのであるが聞き返すことも何のボデイランゲジも無く表情も変えないで帰る様子もない。丸椅子を出して座ってしまった。まあ良い。・・・1曲だけだ。大目に見よう。アンコールも含め2曲が終わった。お客さんは精算を済ませ次々帰っていく。外国人は中々帰らない。きっと精算の仕方が分からないので残っているのだと思った。僕はそういう時性善説に立つ。
「音楽は店の驕りだ。金は要らないぜ。あんたは自由だ。鳥の様にな・・・」とカサブランカのハンフリー・ボガード演ずるリックを意識して喋った。「Pardon me」とも何の反応もない。
とうとうその外国人だけが残ってしまった。「これからはミュージシャンの打上時間になるから相手はできない」と告げる。流石に帰ると思ったがカウンター席に座ってしまった。勿論営業時間内ではあって残ってもらっても良い時間である。でも何か胡散臭い雰囲気を醸し出しているし話しても面白い会話が出来るとは思えない。帰ってもらおうと思った矢先「beer]と喋った。初めて喋った。普通は「beer please]である。「time is out]と言うと流石に帰り支度を始めた。携帯をコンセントから抜いている。僕のパソコンを抜いて携帯を充電していたのだ。
変えるには帰ったが一言の挨拶もない。放った言葉は「beer」の一言だけ。絶対に自分ファーストの小池百合子支持者に違いない。