墓参りに行った。父方の墓も母方の墓も同じ霊園、同じ区画にある。往復ビンタで済むのは助かる。母親は足が弱りとうとう一人で行くことになった。僕は熱心な仏教徒ではないが母親の命で行く限り手を抜くわけにはいかない。雑草を抜き、墓石を洗い仏花を挿し、風吹く中線香に何とか火を点け近況を報告し手を合わせる。毎年のルーティーン作業と言うとご先祖様が起こるかもしれない。だが今年は少し意味合いが違う。墓じまいをすることになるからだ。僕が吉田姓最後の人間になってしまった。ゲーテのように50歳年下の娘と恋に落ち見目麗しく情が深く、毛がふさふさの子孫を授かる確率はマイルスとセシルテイラーのデュオ未発表音源がリリースされる確率よりも低い。お詫びにいつもより余計に手を合わせるのである。
季節外れの曼珠沙華の花を買っていった。山口百恵のタイトルで有名になったが別名「彼岸花」と言い小津安二郎の映画タイトルになったほうが早い。「死人花」「地獄花」とも呼ばれ根に毒性があり野生の小動物除けにもなるとの伝説がある。墓を守る花としてはいいかなと思ったのであるがこの花、種を作らないのである。何か「お家断絶」のイメージをご先祖様に与えてしまったかもしれない。中国原産のこの花は一年に数センチ地中で動くことができる。まだ大陸が地続きだった頃何億年もかけて日本に渡ってきたと言う説がある。自分の子孫を残すのにどれだけ努力をしているのか・・・・気が遠くなる。見習い所だがそちらは間に合わない。残せるのは子孫だけではないので僕はそちらで頑張ることにする。
漢字が書けるようになったころ、父親に言われた。吉田の吉は農家の血をひくので(つち)土で武士ではないので(サムライ)士と書かないように・・・・。ずーっと守ってきた。先生から指摘されたこともない。だが数年前UFG銀行の口座を解約するとき上が長い・・・下が長いでもめたことが有る。初めて漢和辞典を引いた。サムライに口以外の漢字はない。
文字通りラストサムライになった。