2026.9.17~19  スリー・ブランド・ナイス



 この3日間は初日トリオ、二日目と三日目はリーダー代えのカルテット。言うなれば、ここに三つの銘柄(スリー・ブランド )が成立しているのである。なお、オリジナル曲には*を付した。
9.17 布施音人トリオ 布施音人(p)三嶋大輝(b)西村匠平(ds)
 布施を聴き始めてから比較的日は浅いが、ここ2年程度で回を重ねることが出来ている。回数ごとにメンバーが変わる中で、少しづつ彼の全体像に近づいてきたと感じ始めている。多彩な長尺フレーズやブロック・コードによる分厚いグルーブが瞬時の閃きによって自在に出入する。これは聴衆が息をのむ域に達していると思わせるものである。何時ぞや、池田篤氏がマスターとの会話の中で、「布施君いいヨ」と語るのを傍で聞いていた。LIVEが進行するにつれ、池田氏の真意が伝わって来るのである。見事なパフォーマンスだ。演奏曲を紹介する。「317 East 32 nd」、「*いきり」、「Dienda」、「Lost In The Stars」、「Hallucination」、「Pinocchio」、「白と黒のポートレート」、「*Railway」、「*佐渡」、「*Pototsu」、「*Ascending Shadow Of The Mountain」、「Four Brothers」。そして続く二日間も布施は決定的ともいうべき極上の演奏をやり切って行った。余禄1点。三嶋がベースのソロ・アルバムを構想しているとのことだ。この手のものはセールスを期待できないが、その日が来たら皆さんの愛ある対応をお願いしたい。
9.18 曽我部泰紀カルテット 曽我部泰紀(ts)布施音人(p)三嶋大輝(b)西村匠平(ds)
 曽我部は.Push以来およそ4年ぶりの来演だ。そのブランク突破より嬉しいのは、彼がテナー・マンであることだ。テナーを待望していた理由は、レイジーのLIVE史が教えてくれる。ただ私たちは去来する思いを伏せて、今日の曽我部に意識を傾注しなくてはいけない。しかし、人間正直なものである。定刻を過ぎて開始までの数分、自分に込み上げるものを感じていた。吹き出しはインパルスのコルトレーンのような雰囲気だったが、徐々に曽我部流の歌いっぷりに転じていく。テナーが発する独特の太い醍醐味もあれば、身動きを封じられるエレガンスもあり、次第に曽我部の陣地に引き寄せられて行ったのだった。実はこの四人、1月の出張レイジー・バードで曽我部が飛び入りしたらしいのだが、公式ブッキングでは初めての編成だという。それにしては、”meets the rhythm section”がArtなサポートで、それに乗って曽我部も力量を思う存分出しまくったのである。オリジナル曲も実にユニークで、彼の宝財が込められたものとなっている。演奏それぞれの情感の加減が素晴らしく、特にバラードは出色と言えるものだ。こうして曽我部図鑑を見開いているうちに、彼にはレイジーの新たなテナー史を築いて欲しいという願いが募るのだった。演奏曲は「Oriental Fork Song」、「*蟹の巣穴」、「*925」、「*Opus Three」、「*しらさぎ」、「Nothing Ever Change My Love For You」、「After The Rain」、「The Mighty Soul」、「Shiny Stoking」。余禄1点。曽我部はスケッチ魔ということである。世の中には”がさい”という見下し言葉がある。作品の一部を拝見したところ、彼には”画才”が溢れているのをしっかり確認した。
9.19 西村匠平カルテット 西村匠平(ds)曽我部泰紀(ts)布施音人(p)北垣響(b)
 ジャズ市場ではテナーが品薄なのに引き換え、ドラムスは在庫に問題ないらしい。激戦区のためか、西村も1年以上ぶりの登場になる。筆者にレイジーに来るドラムを即刻挙げよと問われれば、おっ~と西村は先頭から少し引き離されてしまった。今般いい頃合いでこの進撃のドラマーは挽回の機会を得たのである。そして今日はリーダーだ。従ってオリジナルが採り上げられている。彼のオリジナルは、美メロというよりは親しみやすい好メロという感じがする。ジャズのみならず、良質のポップ音楽にも精通しているのだろう。筆者にとって初めての西村から結構な年数が経っているが、未だに初聴きの時のフレッシュな勢いが刷り込まれている。いまその勢いに円熟が追いついて来たというのが率直な印象だ。彼には会場を賑わわす天賦の才があるように思う。楽しくなるのである。その彼曰く「作った中で唯一のシリアスな曲」とされたのが「時しらず」である。開放的なキャラクターの希少な裏面は神妙そのものであった。それ以外はワクワクさせるものばかりだ。とりわけソロにおいてピークへ持っていくノリ、マックスでの歌の全開は魅力一杯だ。聴いたばかりを理由に色を付けようとは思わないが、一言呼びかけよう。匠平!レイジーのトップ・ドラマー最上位に”お帰りなさい”。 演奏曲は「Why Don’t I ?」、「Estate」、「Sleepy Dancer Sleep On」、「A Nightingale Sang In Berkeley Square」、「*両網線」、「*Wanna Be」、「*Tiny Stone」、「*時しらず」、「*Tip Kicker」、「*始発 朝焼け 5時3分」。
 今回のLIVEは「西村匠平5Days」と冠されていた。初秋を飾る重要任務を立派に果たして行ったことだろう。 標題は屈指のドラマー西村に敬意を表し、大家アート・ブレイキーの一作を改変させて頂いた。(M・Flanagan)